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山の中の我が家。Sarahと娘のMartha

左から、Eva(次女/7歳)、Laura(長女 /7歳)、Kazue(53歳)、Tock(61歳)、John(父/  ? +7歳)。年齢は2014年クリスマス時点。撮影したのは督さんが手術をする前、2012年2月27日です

1998年のクリスマスカード。当時の犬たち(左からSarah、Jeff、Jim)が、督さんがセルフビルドで使っていたチェンソーや木起こしと一緒に写っている。

1999年のクリスマスカード。SarahとJimの間に仔犬が生まれる。2カ月のMarthaを加えた撮影は大騒ぎ。壁面もなく設備も中途の状態で8年間、キャンプ状態の週末ハウスだった。

2000年のクリスマスカード。頑張って建具もつくった。

2002年。督さんがつくった変わった階段に、犬たちが座ってお祈り中(?)。

雪の日もまた善し。薪ストーブの心地良さは、厳しい冬も暖かくしてくれます。

2004年。Jeffと督さんのお父さんを天に送り、東京から引っ越してきた年。とうとう本当の我が家になりました。

賀川督明・一枝 - 山梨県 都留市 -

 

 

 

1. 冨安さんとの出会い

 

 冨安さんとの出会いは、忘れてしまうほど前のことです。

 いつもお金と時間がなくて、夢ばかり見ていた私たち夫婦は、犬が喜ぶような山の中に小屋を建てたいと願っていました。実現する可能性はほぼ0だったにもかかわらず、計画だけは着々と進めていたのです。

 あるとき当時購読していた『暮しの手帖』に浄化槽の記事が掲載されました。東京23区に住んでいましたから浄化槽は関係ないのですが、将来住むはずの山の中の小屋のためにしっかりと理解しようと考えました。冨安さんのエコロンシステム(当時はまだこういう名前ではなかった気がします)の取材(『ログハウスプラン』)が決まったのは、その少しあとのことです。

 北海道の開拓地に土地を入手した人が、エコな暮らしを模索してたどり着いたのがエコロンシステムでした。その設置工事を取材させていただきました。原稿の校正のやり取りの中で、冨安さんから合併処理浄化槽にも限界があることを教えられました。大きくいえば、二つのこと。一つは曝気(好気性微生物を生かしておくために撹拌して空気を送ること)に電気を使うこと、もう一つは消毒槽で使用する塩素系薬品です。「エコロンシステムは、どちらも必要としていません。初期費用はかかりますが、土壌中の微生物の力を使うので、環境負荷は小さくなります」と言われ、夢の山小屋が実現したときには、絶対にお願いしようと心に決めました。

 しかも、別荘地だとたまにしか使わないので、浄化を担う微生物は餌(つまり汚物)が足りなくなって死んでしまいます。微生物が死滅した浄化槽はタダの箱。汚物は浄化されないままトコロテン式に送り出されている、ということも、このとき初めて知りました。

 それから長い長い歳月が流れ、何年後だったか、その夢が実現することになりました。設置をお願いするために冨安さんに連絡したときには、とても喜んでいただきました。たしか、1998年(平成10)、今から17年前のことです。

2. 応援団として

 

 その数年後、離れをつくったときに、もう1基つくっていただきました。川の源流近くで暮らす者の責任と考えていたからです。

 九州の福岡を拠点とする冨安さんからは、関東地域から問合せがくると「見学させていただきたいのですが、紹介してもいいですか?」と電話がかかってきます。一人でも多くの人がエコロンシステムを採用してくださるように、協力させていただきました。見学といっても装置は地中に埋まっているのですから何も見えません。ただ、このような既成品でない装置を採用するには、使い勝手やその後のメンテナンスが一番の気がかりですから、先輩採用者の真実の声が聞きたいのです。また、橋のない小川を渡らないとならないような場所に立地する我が家に来て、田舎暮らしや木造家屋に住む心構えを聞きたがる人も多くいました。つまり多くの人は、単にエコロジカルな浄化槽商品としてのチョイスではなく、「いかに生きるか」という哲学の中でエコロンシステムと出合ったのではないか、と感じています。

3. うちで起きた不都合

 

 そんな見学の中で「ノーメンテナンスだし、何の不都合も起きたことがないですよ」と言ってきたのですが、そうこうするうちに2回不都合が起きました。このことも正直にお話ししたいと思います。

 1回目は我が家で仔犬が生まれたときに、仔犬のフンをトイレットペーパーでつまんで、ポイポイ、トイレに流しているうちに起きました。流れが悪くなったのです。実は犬のフンというのは、腸で極限まで栄養が搾り取られていて牛や鶏のフンのように肥料にすることもできないほどの状態なのだそうです。人間の排泄物みたいに水で簡単に溶けません。しかも仔犬ですから齧った物や毛玉が混入しています。こうした物でエコロンシステムのネットが目詰りしたのではないか、と考えられます。このときには一度土を掘り起こして、ネットを掛替えて解決しました。

 もう1回は、大雨が降り続いたあとに、大勢の宿泊客が来て、風呂水を大量に使ったあとに起きました。最初は何かが排水管に詰まったのではないか、と長いホースで突いてみましたが詰まりではありませんでした。当たり前のことですが、雨が続いてエコロンシステムの水槽の中が満タンになった所へ、大量の水を流したわけですから流れるわけがなかったのです。今のエコロンシステムは水槽容量を大きくしたようですが、我が家で設置したときには今より小さく、大容量の風呂桶を採用した上に一般家庭より来客が多い我が家では、そもそも水槽の容量が足りなかったのです。

 こうした不都合も困ることは困るのですが、自分の蒔いた種ですし、原因と結果がハッキリしていてむしろその後の指針となると受け止めてきました。ひどい使い方をしても自分に被害が返ってこなければ、川や海が汚れようが、下水処理場で莫大なコストがかかろうが知ったこっちゃない、ということになってしまいます。それが都市生活者の無関心につながっているようにも思うので、自分で蒔いた種の責任は自分で取る、失敗から学ぶ、不都合が起きないように頭を働かせて生きるという今の暮らしは、自分の性に合っているように思います。

4. 冨安さんの大成長

 

 人様に「成長したね」などというのは大変おこがましいことですが、2012年(平成24)に再び取材させていただいたとき、冨安さんの語る言葉は説得力を帯び、パワーアップしていました。

 

http://www.mizu.gr.jp/fudoki/people/048_tomiyasu.html

 

 中でも一番心を打たれたのは、「土の上で生きている生物は自分の排泄物を土に還す。水中の生物は水の中に、水辺の生きものは土か水中に排泄する。しかし人間は、下水道に流すか合併処理浄化槽で処理することになっている。つまり、土を飛び越え順番を無視して川から海に流している。その中には窒素やリン成分といった人間が食べものから摂取して、本来は土に還さなくてはならないものも含まれている。地球という生態系で循環すべき資源を、廃棄物として扱っているからおかしなことになる。資源を捨てずに再利用して循環しよう―。それが家庭排水浄化装置「エコロンシステムK-36」を開発した目的」という下りです。

 汚い物を処理してきれいにする(浄化)装置が、冨安さんの中でアップグレードして「循環」という大きなところにたどり着いていたのです。それが地球上の生きものによる営みの基本ルールだというのです。このことは以前の私に理解できなかっただけで、冨安さんの視野にはとっくに入っていたことかもしれません。しかし、以前の取材時にはそのことを読み取ることが、私にはできませんでした。

 土に戻せば、窒素もリン成分も土がきちんと処理して再利用してくれます。土にはその力がある。なぜならば、そこには多様な微生物が豊かに育まれているからです。空気を好む微生物も嫌う微生物もいて、各々が自分の力を発揮して働くことで全体の仕組みが適切に回っていく。これって、すごいことですよね。逆に言えば、その多様性を損なうことなく育んでいかなければ、健全な循環は断ち切られてしまうということです。

 排泄物を土に還すという知恵は、世界中で数千年と引き継がれてきたものですが、それを止めてしまったのは臭いがしたり、衛生的ではないということが大きな要因です。その欠点を解決して、良所を採用したのがエコロンシステムなのだと思います。

命を育む力がある野菜は、健全な土がつくる。

ニュージーランド製の簡易なマイクロ水力発電機。出力1kW。

5. 土の力

 

 その後、私は地質学者の原田憲一さんと出会うことで、土の力を再認識することになりました。原田さんからは「植物は水と光(光合成)だけでは育たないこと」を教えられました。水耕栽培(植物工場)では三大生命元素〈窒素・リン・カリ〉を添加するので葉っぱは大きくなるが、生命を維持するのに必要な栄養が不足した野菜しかつくれない。植物が育つには 16種類もの生命元素が必要で、それはまともな土で育てないと得られないのだ」と教えられたのです。

 

http://www.mizu.gr.jp/images/main/kikanshi/no48/mizu48f.pdf

 

 この話を聞いたとき、ものすごく腑に落ちたのは冨安さんの話を聞いていたおかげです。よく「宇宙船 地球丸」と言いますが、本当にその通りです。私たちはほんのわずかな時間、地球丸に乗せていただいているにすぎません。その私たちが次の世代の分まで資源を使い尽くしたり、大事なものを勝手に捨てたりすることが許されるはずがありません。

 近代農業(つまり化学合成された肥料や農薬が登場してからの農業)が成立する前までは、焼畑をしたり肥溜めで熟成させたりといった方法で、三大生命元素〈窒素・リン・カリ〉を植物に吸収できる形に変えていました。エコロンシステムなら得られるその三大生命元素を、下水道や合併処理浄化槽に流して、化学合成された肥料を使うというのは筋が違うのではないか。今の私は汚い物をきれいにするだけでなく、真っ当な土を育むという観点からも積極的にエコロンシステムを応援したいと思っています。

2012年2月に癌の摘出手術をする直前、大好きなコーヒーを淹れる督さん。オリジナル薪ストーブは、暖房だけでなく、調理や食器の温めに大活躍しています。

追記

 

 こうした考えは、私たち夫婦に共通した思想でした。素敵なことには二人で「いいね」と言い、違うと思ったことには「No」と言ってきたのです。家の設計をして半分はセルフビルドで仕上げた督さんは、来客があるたびに家自慢、生き方自慢をしてきました。沢から引いた水を生活に使い、小水力発電にもトライしました。オーブン付きの薪ストーブは、督さんが設計して鉄工所でつくってもらったオリジナルです。もちろん、暮らすことの哲学の象徴であるエコロンシステムのことも。

 そのパートナーを2014年9月17日に天に送りました。子どもがいない私たちにとって、二人で築いた実験住宅は私がいなくなれば主を失うことになります。できたら何かに活用してほしい、その願いがいつしか聞き入れられることを願って止みません。夢の山小屋が実現したように、その夢もかなえられることを信じています。

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